2026.08.28 YARD ATELIERS

Vol.02 | 目から鱗が落ちた「108 UROKO」の製作風景

Photography & Text by : Soya Oikawa

 2026年6月某日、朝9時の始業に合わせてアトリエを訪問。この日は「108 UROKO」デニムパンツの縫製が行われようとしていました。現行モデルの「117 TYPE LOOSE」の原型となった「108 LOOSE ANKLE」をベースに、左右の脚に施されたウロコ状のパッチワークが特徴です。

 パッチワークは1本あたり左右5枚ずつのパーツから構成され、楕円や四角、角丸の形をしたインディゴ、シャンブレー、生成りの3つの種類の布地があります。複数種類があるのは、着用とともに継ぎ足されていく時間の重なり、つまり堅牢なワークウェアがもたらすデニム特有のフェードとリペア跡という物語がデザインされているのだと思いました。

児島式の分業による協業

 アトリエでは常に異なる複数の作業が同時に進行されます。みんなで同じことをするのではなく、それぞれがお互い関係しあった別々の工程を進める。そうすることで、ひとりで全部行うよりも、生産の質と量とスピードを向上させることができます。このような各自の分業を基にした協業は「マニュファクチュア(工場制手工業)」という16世紀のイギリス毛織物産業に端を発するとても古い生産様式ですが、児島のジーンズ産業は21世紀においてなお、この生産スタイルが躍動しているという大変おもしろい側面があります(このお話はまた別の機会に)。

 ということで、全工程のほんの一部ではありますが、この日行われていた作業を詳しくみていきましょう。ウロコパッチワーク布の下準備、縫い付ける位置のマーキング、縫い付けるためのサイドシーム解き、1箇所目と2箇所目の縫い付けなどが並行して行われていました。

ウロコの下準備

 前掲右の写真のように、3種類あるパッチ布のうちインディゴのパッチ布はまとめてネットに入れてバイオウォッシュ加工を施します。加工後のパッチ布をネットから出したら、一枚ずつていねいにほぐしてアイロン掛け。全部で千数百枚におよぶパーツを黙々とチェックしていきます。

 しかし中には何枚か、縁(ふち)のロックステッチがほどけてしまったものがあったので、掛け直す必要がありました。パッチ布にする前にバイオウォッシュ加工をしておけばよかったのか……。ものづくりの工程の順序はまるで生き物。いくつもの試行錯誤を経て改善されていきます。

ピンクのマーキング

 隣の部屋では、パッチワーク布を縫い付ける箇所にピンクのチャコペンで印つけが行われていました。今回の場合、縫製後にユーズド加工されたパンツに型紙をあてながらマーキングするため、位置がズレないようにするのがとても難しいのです。

 一見同じ位置についているように見えても、サイズ毎の違い、ユーズド加工による繊細なヨレやネジレなどといった、異なる個性を見極めながら、平等に正確にピンクの点が打たれていました。

一度縫ったサイドシームをほどく

 この「108 UROKO」モデルはベースがユーズド加工ですが、パッチワーク布を付けた後に加工をするとすべてに同じ加工がなされてしまうため、パンツはパンツ、パッチ布はパッチ布と、別々に加工してからお互いを縫い合わせる必要があります。

 ということは、片足ずつ細長い筒状のパンツにパッチ布を縫い付けていくことはできないので、一度サイドシームをほどいて開き、パッチ布を縫い付けてまたサイドを縫い閉じるという工程を辿らなければなりません。このような作業は完成後からは想像し難い工程ですが、ものづくりには隠れて見えない工夫が数多く存在するのだと実感しました。

この一針のために

 いよいよパッチワーク布を縫い付けです。時刻はすでに夕方近くに差し掛かっていたこともあり、この日は1枚目と2枚目(全部で10枚縫い付けます)の縫い付けが開始されたところまででした。

 ここまで数々のスタッフの作業を経由してやっと縫い付けが始まるのかと、なぜか駅伝の襷を思い浮かべながら作業を見守ってしまいました。縫い付けていく順番もデザインの一部であり、間違いが起こらないように慎重に、そして丁寧に縫い付けられていきます。

呼吸するアトリエ

 アトリエを取り仕切る藤原麻衣さん。「108 UROKO」のような工程数の多い製品を生産するときは作業人数も多く必要なため量産ラインを一旦ストップさせなければいけません。シーズン全体の生産を見通し、その月、その週、その日にアトリエで何をしなければいけないのかを判断します。

 そしてこのヤード アトリエはあくまでも「縫製の拠点」であり、縫製以外の生地の加工や、付属などの仕上げをしてくれる児島各所に点在する関係企業や職人さんたちとの連携も彼女の大事な仕事です。

 ブランドのプロダクションラインを背負い、アトリエ内外のコンディションの把握とコミュニケーションに至るまで、心地よくアトリエが呼吸できるように日々を切り盛りしているのでした。すごいことです。

 このようにして、ある日のアトリエの作業をご紹介してきましたが、ひとつの工程はだいたい2~3時間かけて進んでいるようでした。その間に作業の指示はほとんど飛ばず、スタッフみんなが次々と作業や持ち場を変え、手伝い合い、熟練したチームのようにスムーズに連動して全体を動かしている様子が印象的でした。どこかで「108 UROKO」デニムを見つけたとき、このような生産の背景を思い出していただけたら嬉しいです。

Photography & Text by : 及川壮也 (Soya Oikawa) @soyaoikawa

ライター、講師。1978年、宮城県仙台市生まれ。セレクトショップやコレクションブランドでのPR職や、オウンドメディア立ち上げなどを経て2023年に独立。また、2012年から母校の専門学校創表現研究所est(現ファッション文化専門学校DOREME)でカルチャーにまつわる特別講師を務めている。